「逆アングルピッキングは音がよい」はただの勘違い【動画あり】

ギター

「逆アングルは音が太い」とか「順アングルは音が細い」などと言って、逆アングルピッキングのことを「優れたピッキング」であるかのように主張する人がいます。

しかし、その手の主張には論理的に穴があります。要は、ただの「勘違い」や「思いこみ」なのです。

この記事では、「逆アングル=優れている」という認識は間違いであるという事実について、動画も交えながら解説します。

3つのピッキングアングル

念のため、ピッキングの「アングル(角度)」という概念について確認しておきましょう。

ピックが弦に当たるとき、角度という視点で大まかに分けると「3通りの当たり方」が存在します。

平行アングル

ひとつは角度がつかないパターン。

これを平行アングルといいます。

順アングル

もうひとつはピックがネック側に傾いているパターン。

これを順アングルといいます。多くのギタリストがこの順アングルを基本としているはず。

逆アングル

そして、順アングルと真逆の角度になるのが逆アングルです。

親指が大きく反り返ったフォームが特徴的です。

判断基準は「弦に対する角度」

逆アングルピッキングか否かの判断基準となるのは、「弦に対してどんな角度でピックが当たっているか」です。

たとえば下の写真のように、ピックを持つ親指がいくら反り返っていようと、ピックが弦に対して逆の角度で当たっていないなら、それは逆アングルピッキングではありません。

逆アングルっぽいピックの持ち方ではあるが、これは平行気味のアングルでしかない。

アングルによる音の違い

では、本題に入りましょう。

逆アングルピッキングが本当に優れたピッキングといえるかどうか、ほかのアングルとの音の違いを実際に動画で確認してみましょう。

ちなみに、ピックは新品を使用しています。(材質は一般的なセルロイド、厚みは1ミリ)

ダウンピッキングの場合

まずは1弦を「平行アングル→順アングル→逆アングル」と切り替えながら、ダウンピッキングで弾いてみます。

ピッキングの強さは「弱すぎず、強すぎず、気持ち強め」ぐらい。音の違いをよく聴いてみてください。

続いて、巻き弦である5弦も同じように弾いてみます。

どうでしょう…?

おそらく、ほとんどの人が音の違いをそこまで感じなかったのではないでしょうか。

厳密にいうと、順アングルは平行と比べて角度がついた分、わずかに音が丸みを帯びたような印象になり、ピックと弦がこすれる音も少し聞こえてきます。

逆アングルも順アングル同様、平行と比べるとわずかに音が丸くなったような印象で、ピックと弦がこすれる音が少し聞こえます。

注目すべきは、逆アングルと順アングルに音の違いがあまりない点です。

よほど捻くれた人でもない限り、優劣の差など感じなかったはずです。

オルタネイトピッキングの場合

今度は「オルタネイトピッキング」でも弾いてみましょう。ピッキングの強さは「弱すぎず、強すぎず、ややあっさり」ぐらいです。

まずは1弦から。

続いて、5弦のオルタネイト。

音の違いは感じましたか…?

ダウンピッキングよりは違いが分かりやすいかもしれません。順アングル・逆アングルともに、平行アングルと比べるとわずかに音が丸い印象で、ピックと弦がこすれる音も比較的はっきり聞きとれます。

ただ、順アングルと逆アングルを比較しても、ほとんど差がないと思いませんか?

少なくとも、優劣をつけるほどの差はないはずです。

コードストロークと逆アングル

「順アングルでコードストロークをすると、1弦側でピックが縦になってしまい音が細くなる(※図1)。しかし、逆アングルにすればそれを防ぐことができる(※図2)」

図1:順アングルだと、1弦にたどり着く頃にはピックが縦になってしまう
図2:逆アングルでストロークすれば、1弦でピックが縦にならずに済む

そんな理屈を唱える人もいます。たしかにコードストロークの際、6弦側と1弦側とでピックの当たる角度が変わってしまう、というのはあるでしょう。体の都合上、自然に弾こうと思ったら少し角度が変わってしまうのは避けられません。

ただ、6弦側と1弦側とでそこまで大きくピックの角度が変わってしまうのは、決して普通のことではありません。

それを前提に話を進めていること自体が「おかしい」のです。

合理的なストローク

コードストロークの際、腕をどう動かすか、手首をどう使うか(あるいは使えていないか)、それらの条件によって、ストロークの軌道は大きく変化します。

上の図のように、6弦側と1弦側とでピックのアングルがあまり変わらないストロークの仕方だってあるわけです。むしろ、本当にギターがうまい人の多くは、この手のストロークになっているはずです。

さらに、こうした「合理的なストローク」でまともに弦をはじくことができているなら、ピックの角度が平行だろうが縦だろうが、音はさほど変わらないのです。

下の動画はコードストロークの際、ピックの角度によって音がどう変化するかを検証した動画です。

分かりやすくなるよう、わざとストローク幅を狭めにしています。

先に述べたとおり、腕の振り抜きの過程でどうしても角度が変わってしまう部分はありますが、極力平行を意識したもの、少し極端な順アングル、少し極端な逆アングル、の3つを比較しています。

音の違いなどほとんどないことが分かってもらえたのではないでしょうか。

少なくとも、「逆アングルが優れている」とか「順アングルが劣っている」とは感じなかったはずです。

なぜ「逆アングルがよい」と主張する人がいるのか?

これらの結果を踏まえると、「逆アングルピッキングが優れている」などという結論に至るはずがないのです。

「どのアングルも全部一緒」などというつもりはありませんが、優劣をつけるほど音の差がないのは動画で示したとおりです。

それなのに、なぜ「逆アングルが優れている」とか「順アングルが劣っている」と結論づけてしまう人がいるのでしょう?

結論を言ってしまえば、何か」がおかしいのです。

その「何か」にもいくつかのパターンがあると思います。

  • 横にこするようなピッキングをしている
  • 比較する角度がおかしい
  • 弾き方の違いとアングルの違いを混同している
  • 削れたピックで検証している
  • 他人に流されているだけ
  • ただの自己顕示欲

順番に解説します。

横にこするようなピッキングをしている

まず、「横にこするようなピッキング」をしているせいで勘違いしているパターン。

物理的に考えて、横に張った弦を横にこするようにピッキングしたら、まともな音が出にくいのは当然です。

下の動画のように、「ある程度まともなピッキング」と「横にこするようなピッキング」とでは、同じ順アングルでも出音がまったく異なります。もちろん、横にこするようなピッキングのほうが弱々しく非力な音になります。

しかし、横にこするようなピッキングをしていたとしても、ピックの角度を平行気味に近づければ「こすっている感」は軽減されるので、それなりの音が出たりもします。

そして、そんなことをやっている人が「逆アングルは音が太い」「順アングルは音が細い」と勘違いしたりするわけです。

もちろん、問題なのは順アングルではなく、「横にこするようなピッキング」です。

そもそも、横にこするような弾き方で「本当の逆アングルピッキング」をするのは、親指が90度以上曲がる僕ですら困難です。横にこする弾き方は、手首が上のほうに位置する都合上、どうがんばっても「せいぜい平行気味」ぐらいにしかなりません。

要するに、もともとのピッキングに問題があることに加え、ほとんど平行気味のピッキングを逆アングルピッキングだと思いこんでいるのです。

このパターンで「逆アングルが優れている」と勘違いしている人は、かなり多いのではないでしょうか。

比較する角度がおかしい

すでに上で少し触れましたが、比較する角度がおかしいがゆえに勘違いしているパターンもあります。

たとえば、ありがちなのが角度50度以上」といったキツめの順アングルと、ほとんど平行に近い逆アングルを比較しているといったもの。

ほとんど平行に近い逆アングルと比較するなら、ほとんど平行な順アングルと比べなければ、まともな比較になりません。

「きつめの順アングル」と「ほぼ平行」を比較しておいて、「逆アングルは優れている」と主張するのはおかしいのです。

そもそも、何度も動画で示したとおり、ある程度まともなピッキングをしていれば、ピックの角度が違ったところで音色にそこまでの差は出ません。

つまり、比較する角度がおかしいだけでなく、何か別の問題(横にこするピッキングなど)も絡んだうえで勘違いしているわけです。

弾き方の違いとアングルの違いを混同している

それから、逆アングルのときと順アングルのときとで「まったく違う弾き方」をしておいて、「逆アングルは音がいい」と言っているパターン。

たとえば、逆アングルのときだけボディに向かって叩きつけるように弾いて「音が太い」と言っているパターンを稀に見かけます。

順アングルのときと「弾き方そのもの」が違うなら、出音なんて変わって当然です。順アングルと逆アングルを比較するなら、アングル以外の条件はすべて同じにしなければ「おかしい」のです。アングル以外の要素を変えてしまっては、まともな比較になりません。

正しく比較していないのに、「逆アングルは音がよい」は論理が破綻している、というわけです。

ちなみに、逆アングルで叩きつけるように弾くのと、順アングルで叩きつけるように弾くのを比較した場合、音の違いはほとんどありません。(下の動画を参照)

削れたピックで検証している

「使い続けて削れたピック」で弾いた場合、順アングルと逆アングルの音色に大きな差が出ることがあります。

順アングルと逆アングル、どちらもピックの端の部分が弦に当たるのですが、実は当たる部分が微妙に違うのです。

順アングルの場合、ダウンピッキングでは「ピックの左端、かつ裏面に近い部分」が弦に当たり、アップピッキングでは「ピックの右端、かつ表面に近い部分」が弦に当たります。

逆アングルの場合はその反対。ダウンでは「ピックの右端、かつ裏面に近い部分」、アップでは「ピックの左端、かつ表面に近い部分」が弦に当たります。

ダウンアップ
順アングル左、裏右、表
逆アングル右、裏左、表

要するに、いつも順アングルで弾いている人が突然逆アングルにすると、ピックのまだあまり削れていない部分が弦に当たることになるわけです。

ピックの削れた部分は「少し尖った形」となるので、そこが弦に当たれば音はシャープな印象になります。それに対し、あまり削れていない部分が弦に当たると、音は多少まろやかな印象になります。

こうした要素が絡んだ結果、「逆アングルピッキングによって音が太くなった」と誤解するわけです。

使い続けて削れたピックを裏表逆に持って弾いてみると、出音が変わったと感じませんか?それと同じような理屈です。

他人に流されているだけ

「有名なプロミュージシャンが『逆アングルがいい』って言っていたから…」

といったような、「誰々が言っていたから」という理由だけで逆アングルがよいと思いこんでいるパターンもあります。

自分の耳で判断していない、あるいは判断できない人が、他人の言ったことをそのまま鵜呑みにしているわけです。

ちなみに、「有名な人が言っていたから正しい」「プロが言っているから正しい」は大きな間違いです。

プロミュージシャンの多くは、それ相応の才能や魅力をもっていますが、その人が「頭のよい人かどうか」はまったく別の話。

「非論理的なこと」「支離滅裂なこと」「ただのオカルト理論」を主張しているプロミュージシャンはたくさんいると思います。

ただの自己顕示欲

単に自己アピールのために「逆アングルは優れている」と主張したがる人もいると思います。

逆アングルピッキングは世界的に見てもかなりの少数派なので、「めずらしいピッキング」といえるかもしれません。

「めずらしいピッキングで演奏する“自分”は優れている」
「そんな自分の有能さを周囲にも分からせたい」

そんな心理から「逆アングルは優れている(=それを操る自分はすごい)」と言い張るのです。

「おれはすごいんだ!」と他人にアピールしたくなる、そんな欲求を「自己顕示欲」といいます。自己顕示欲の強い人は、「自分=すごい」というポジションをとるために話を盛ったり、嘘をついたり、知ったかぶりをしたり、といったことを日頃からよくやりがちです。

このタイプの人が言うことを真に受けてはいけません。

逆アングルピッキング自体は「悪くない」

誤解されないよう言っておくと、僕は逆アングルピッキングが悪いピッキングだとは少しも思っていません。

「逆アングルで弾くのがいちばんしっくりくる」という人は、もちろんそのままでよいと思います。また、「微妙な差だけど逆アングルのニュアンスが好き」と思うなら、それもありでしょう。

ただし、「やっぱり順アングルが弾きやすい」と感じるなら、その順アングルでまともな音を鳴らせるようにしたほうがよほど合理的です。

何度も言うように、アングルによる音の違いなど「たいしたことない」のですから。

大事なのはピックのアングルではなく、「その手をどう動かすか」です。

穴だらけの論理より「音という事実」

「逆アングルが優れている」が真実なら、今ごろ世界のトップギタリストたち(あるいはベーシストたち)の多くが逆アングルで弾いているはず。しかし、現状そうではないわけです。

この事実が「答えそのもの」ではないでしょうか。

「逆アングルは難しいからそう簡単にできないんだ!」と言う人もいますが、人間技とは思えないテクニックを軽々と披露する世界の猛者たちにとって、逆アングルピッキングなどそこまで難しいものでもないでしょう。(親指が反らない人はできませんが)

たとえば、ポール・ギルバート。彼はもともと逆アングルで弾いていたと知っていましたか?

ポールが「かつての逆アングルフォーム」でプレイする映像をいくつか見たことがありますが、スピーディーなフレーズを余裕で弾いているのが印象的でした。ポールいわく、どんどん親指が曲がってしまうのではないかと怖くなり、順アングルに修正したのだとか…。

海外プレイヤーのなかに、逆アングルで弾く人がたまにいるのは事実です。でもそれは、「そのピックの持ち方がしっくりくるから」といった単純な理由のはず。

トップギタリストたちの多くが「逆アングル」という弾き方を選ばないのは、あえてそれを選ぶ理由がないからです。

多くのプロギタリストから、その「音」を絶賛されるエリック・ジョンソンですら、基本的に順アングルで演奏しています。彼の音を聴いて「順アングルだから音が微妙…」などと感じますか?

図太いサウンドでおなじみのザック・ワイルドも順アングルです。彼の音を聴いて「音が細い」とか「音抜けが悪い」と感じますか?

「逆アングルピッキングは優れている」という論理は、正直にいって「穴だらけ」です。その穴だらけの論理より、ワールドクラスの名プレイヤーが何度も証明している「音という事実」のほうが、よほどあてになるはずです。

おわりに

というわけで、「『逆アングルピッキングは優れている』は間違いである」という僕の見解をひと通り述べてみました。

もちろん、僕の主張をどう捉えるかは皆さんの自由です。

あなたはどう思いましたか…?