「初心者でも高いギターを買うべき!」とか、「はじめの1本こそ高いギターを買うべき!」と主張する人がいます。
しかし、そう主張する人は「買う人」のことを真剣に考えていません。自分自身の体験で頭の中が埋まっていて、「買う人の未来にどんな可能性があるか」を想像できていないのです。
「好み」なんてどうせ変わる
初心者のうちはギターのことをあまり知らないので、好みがないも同然です。せいぜい、「あの形がかっこいい!」とか「あの色がいい!」とか、見た目の好みぐらいでしょう。
もちろん、最初はそれでいいのです。ただ、その段階でなんとなく高いギターを買うと、割と早い段階で後悔する可能性もあるのです。
ギターに対する好みは、ギターを続けているうちにだんだん形成されていきます。特に、誰か特定のギタリストに強く興味をもったとき、それが顕著にあらわれるはずです。
「この人と同じような音が出したい!」
「この人と同じようなギターがほしい!」
そして、いよいよ別のギターが欲しくなるわけです。自分の使っているギターがタイプの異なるものだった場合はなおさらでしょう。
何かのきっかけで憧れのギタリストが変われば、それに合わせてギターの好みもコロッとに変わったりします。特にギターを初めて数か月~1年といった初期のうちは、好みが生まれたり変わったり、変化が激しいかもしれません。
その「好み」がまともに形成される前に、「なんとなく」で大枚をはたくことはギャンブルみたいなものです。当たることもあるのですが、どちらかというとハズレる可能性のほうが高いわけです。特に、バリエーション豊富なエレキギターの場合、ハズレの確率も高くなります。
「それでもギャンブルしたいです!」という人はまあいいと思うのですが、知識の乏しい他人にギャンブルさせようとするのは、あまりよいことではないと思います。
「一生モノになるから」は間違い

「初心者でも高いギターを買えば一生モノになる」という人もいますが、それは大きな間違いです。正しくは、「“おれは”高いギターを買って一生モノになった」です。
「自分はこうだった!だからお前も絶対そうだ!」という強引な論理が通るはずありません。脱サラして成功する人もいれば、失敗する人もいます。結婚して幸せになる人もいれば、心から後悔する人もいるのです。
単純な話ですが、初心者が高いギターを買って、それが一生モノになるという保証など、どこにもありません。そもそも、「本当にギターを弾き続けるかどうか」が分からないのです。
エレキギターの老舗ブランド、フェンダー社のCEOアンディ・ムーニー氏によると、大規模なユーザー調査の結果、「ギターを手にした人の約9割は1年以内に挫折してしまう」と分かったそうです。
「その初心者のうちの90パーセントの人は、1年以内もしくは90日以内でギターを辞めてしまう」というのです。
Rolling Stone Japan 老舗ギターブランド「フェンダー」が成長し続けている理由 より引用
すぐにやめてしまうなら、もちろん一生モノとはいえません。10年、20年とギターに没頭し、なおかつギターの好みが大きく変わったりしなかった場合のみ、一生モノといえるのです。ギター自体は長く続いたとしても、続けるうちに好みが大きく変わったりすれば、そのギターは結局使わなくなります。
思いきって高いギターを買った結果、一生モノになる可能性“も”あるのですが、そうでない可能性だって充分にあります。その「当たり前のこと」を想像できない人は、お世辞にも賢いとはいえません。あまり賢くない人のアドバイスを鵜呑みにして、大金を使ってしまうのはよくありません。
一生モノにならなかった場合に、「ごめん、おれが一生モノになるって言ったもんな。責任とって全額払うよ」…であれば別にいいと思うのです。でも、そんなことはしてくれないわけでしょう?
無責任なかたちで「他人が大金を使うよう誘導する」のはよくないことです。
高いギターを買うと挫折しにくい…?
「高いギターを買えば挫折しにくい」という人がいます。
先にも述べたように、ギターを手にした人の9割は1年以内にやめてしまうといわれているため、高いギターを買うことで自分にプレッシャーをかける、という理屈は一応は理解できます。
ただ、それを聞くたびにいつも思うのが、「そんなモチベーションでギターを続けてどうするの…?」ということ。
ギターを弾くことは義務でも何でもありません。自分で好きだからやること、楽しいからやることだと思うのです。
僕がギターを始めたばかりの頃、ちっともうまく弾けなかったわけですが、それでも毎日楽しくて仕方なかったことをはっきり覚えています。弾けないなりにも好きな曲をなぞったりして、家にいるあいだはずっとギターを抱えていました。
「うまく弾けないし、もう挫折しそう…。でも、高いギターを買ったんだし、がんばらなきゃ…」
…とか思っている時点で、その人はもうギターに向いていないのです。うまく弾けなかった曲がなんとか弾けるようになる、でも次はこれが弾けない…。ギターはその連続です。そういった「攻略する過程そのもの」を楽しめない人は、残念ですがギターに向いていません。
ギターに手を出した結果、向いていなかったのであれば、さっさとやめてしまうべきです。もっと夢中になれる「別の何か」を見つけて、そこに時間を使うほうが人生は有意義なものになるはず。なにもギターに固執する必要はないのです。
若い人ほど、向いていないと感じたらすぐに「次」に移るべきです。その分、「充実した時間」「楽しい時間」が増えるのですから。
安いギターは弾きづらい…?

「安いギターは弾きづらい」という人もいますが、これもただの勘違いか、最近の安物が昔に比べてレベルアップしていることを知らない人の発言だと思います。
YouTubeでも、1万円のギターでバリバリ弾き倒している人の動画がたくさん見つかるはずです。
弾きやすいかどうかはギターの値段ではなく、相性やコンディションの問題です。
ギターにもいろいろな種類があり、それによって弾きやすいと感じるか否かが変わってきます。たとえば、ネックの厚さ。ネックが薄いギターを弾きやすいと感じる人は、ネックが厚いギターを手にすると弾きづらいと感じたりします。
また、コンディションが悪くてネックが反っていたりすると、ギターは弾きづらくなります。ただし、それは高いギターでも安いギターでも同じこと。高いギターでもコンディションが悪ければ弾きづらくなります。
高いギターは高く売れる…?
「高いギターを買えば、弾かなくなったとしても高く売れるから…」という人もいます。
たしかに、まあまあの金額で売れたりしますが、それでも結構な金額を失うことになると認識しておくべきです。
たとえば、フェンダーの25万円ぐらいのギターを楽器屋に買い取ってもらうとしましょう。某楽器屋サイトで公表されている情報によれば、最も高く売れた場合で12~13万円程度です。(なんだかんだで、もっと安くなってしまうことがほとんど)
ギターに限った話ではないですが、モノの価値は中古になった時点で一気に下がります。ギターの場合は一部の例外を除き、余裕で半額以下の価値になる…と考えたほうがよいと思います。
「高いギターを買うべき!」はただの「承認欲求」

「高いギターを買え!」と声高に叫ぶ人のなかには、相手のためではなく、自分のためにそう発言している人もいます。
たとえば、安いギターでも充分だと主張する人がいたり、安いギターで満足している人がいたとしましょう。すると、高いギターにお金をつぎ込んだ人は、自分自身が否定されたと感じ、そのことが許せないわけです。
その結果、「高いギターを買うべき!」といった主張に繋がったりします。
「他人から自分を否定されたくない」「他人に自分を認めてほしい」といった欲求を、「承認欲求」といいます。承認欲求は人間ならば誰もがもっている欲求ですが、欲求の強さには大きな個人差があります。この承認欲求を少しこじらせたような人が、「高いギターを買え!」と発言したりするわけです。
この場合、当然ですが初心者のことなど少しも考えていないはずです。
「大金は慎重に使う」という当たり前を忘れるな

初心者がなんとなく高いギターを買うのには基本的に反対ですが、その人がお金持ちだった場合は例外です。
高収入で貯金もたっぷり、お金にはまったく不自由していないとか、親がお金持ちで月のおこづかいが何十万とか、そんな人は最初から高いギターを買っても何の問題もないと思います。
ただ、多くの人はそこまで余裕がなく、どちらかというとお金の不安とともに日々を過ごしていると思うのです。
自分の5年後、10年後、子どもがいる人は子どもの5年後、10年後…。必要な出費、予期せぬ出費、いろいろあるでしょう。先のことを考えれば、何十万というお金は大事にするべきです。まだギターの価値がよく分からない初心者の段階で、なんとなく高いギターを買うことは賢明な判断とはいえません。
ギターにのめりこんで、少しギターのことが分かってきた人が、2本目に高いギターを買おうとするのはまだいいと思っています。もちろん、「無理なく買える範囲で」という意味です。自分の収入や財力に対し、無理のある金額のギターを買うことは、中級者や上級者でもよくないと思っています。
日々健やかに暮らせるという土台があって、そのうえで「ギターが楽しい」は成立すると思います。土台を崩さないためにはお金が必要です。だから、そのお金を雑に使うべきではないのです。
そもそもの話ですが、「もっと安い」の選択肢があるなかで、わざわざ高いものを買う理由とはなんでしょう?
「素晴らしいものだから、高いお金を払ってでも買う」
この考えはもちろん理解できます。ただ、高いものを買う人のなかには、そうでない人たちもいます。
「高いからきっと素晴らしいんだろう…」
「みんなが『いい』って言うから…」
そう考えて、とりあえず高いものを買う。そして、「高級品を買った人」というグループに属して、そのグループにいることで安心する…。その「安心感」を求めて高いものを買う人たちもいるわけです。
お金持ちの人ならそれでも問題ないでしょう。ですが、無理をしてそのグループに入る必要はないと思うのです。そのグループにこだわっていると、いつもいつも無理してお金を使うことになり、家計が圧迫されます。幻のような安心感のために高いものを買い、生活面でお金の不安を抱えるというのも、なんだかおかしな話だと思うのです。なにより、そのグループに属さなくても、ギターを楽しむことなんていくらでもできますから。
大きなお金はよく考えて慎重に使いましょう。あなたに高い買い物をさせようとする人は、なんの保証もしてくれませんよ。
僕も1万円程度の格安ギターを所持していますが、普通に演奏できますよ。