初心者が安いギターを買おうとすることに対し、否定的な意見を述べる人がいます。
しかし、初心者こそ安いギターにしておくべきです。理由は後述しますが、初心者が高いギターを買うと、結局は損をする可能性が高いのです。
とはいえ、安いギターには「それなりの理由」があります。できれば、購入する前にそういった懸念点を明確にしておきたいものです。
この記事では、安いアコギのデメリットや安さの理由について解説します。
安いアコギの「安い」ってどの程度?
本題に入る前に、安いアコギの「安い」が一体どの程度の金額を指すのか、はっきりさせておきましょう。
50万円、100万円といったギターがある以上、10万円程度のギターなら「安い」と感じる人もいるでしょう。しかし、庶民的な金銭感覚で言うなら、10万円の買い物は「高い」と感じる人が多いはずです。
結局のところ、「高い」とか「安い」といった基準は人によってバラバラなのです。そこで、大手ギターメーカーのラインナップに注目してみましょう。
たとえば、ヤマハが製造するアコースティックギターは、数十万円するようなものがいくつもある一方で、数万円程度のものも多く揃っています。そうした幅のあるラインナップのなかで、3万円前後のものを「エントリークラス(入門者向け)」とメーカー自らが謳っています。
これはヤマハだけでなく、フェンダーなどのほかメーカーでも同様で、2~5万円程度のものをエントリークラスとして扱っている傾向があります。
こうした事実を踏まえ、ひとまずこの記事中では、2~5万円の範囲内で買えるギターを「安い」と定義し、1万円程度で買えてしまうものを「安すぎる」と定義します。
「安すぎるアコギ」のデメリット
まずは、1万円程度で買えてしまう「安すぎるアコギ」のデメリットについて見ていきましょう。
ここでは、僕自身が6,500円ほどで購入した「ZENN ZS18」を題材にして話を進めます。

PLAYTECH ( プレイテック ) / ZS18
※別色モデルあり
フレットの処理が雑
アコギに限った話ではないですが、安すぎるギターは指板に打ってある「フレット」の処理が雑な傾向にあります。
具体的にいうと、フレットの打ち込みが甘くて少し浮いた感じになっていたり、フレットの端が尖っていて引っかかりを感じたり、丁寧に仕上げられているとは言えないのです。
下の写真は、指板に打ちつけられたフレットが少し浮いている様子です。

フレットが浮いていると、特定のポジションを押さえたときに嫌なビビリ音が鳴ってしまうなど、演奏に支障をきたす可能性があります。
次の写真は、フレットの先端が鋭く尖っている様子です。

フレットの端が尖っていると、演奏中に左手を素早く移動するときなど、チクッとした嫌な引っかかりを感じ、個人的にはとても不快です。
もう少し価格が上のギターなら、フレットの端がチクチクしないような処理が施されていたりするのですが、1万円前後のギターの場合、こうした部分でコストカットせざるを得ないのでしょう。
オクターブチューニングが合わない
続いて、安すぎるアコギにありがちなのが、「オクターブチューニング」の問題です。
どこも押さえない開放弦の状態でしっかりとチューニングを合わせても、1オクターブ上の12フレット付近でコードを弾いたりすると、どうも音痴な感じになってしまうことがあります。

この状態を、「オクターブチューニングが狂っている」などといいます。
エレキギターやエレキベースの場合、このオクターブチューニングの狂いを簡単に調整することができるのですが、アコースティックギターの場合はそうもいきません。素人の手で調整するのは難しく、リペアショップ等で加工をしてもらわなければなりません。
あくまで僕の主観ですが、安すぎるアコギの多くは、オクターブの狂いが本当に酷いと感じます。要するに、精巧には作られていないのです。とはいえ、価格が価格なだけに、ある意味当然なのかもしれません。
見た目が少し汚い
これは「ZS18」特有の問題かもしれませんが、「見た目が少し汚い」という問題もありました。
ボディが黒く汚れている
ボディをよく見ると、あらゆる所に「黒っぽい汚れ」のようなものが確認できます。塗膜の内側が汚れているので、拭いて落ちるようなものではありません。




金属パーツがみすぼらしい
このギターは一度も外へは持ち出さず、部屋のスタンドに立てて保管しているのですが、写真のように金属パーツがみすぼらしい状態になってしまいました。(購入は2016年、写真は2020年撮影)


購入時は綺麗な状態だったのですが、いつの間にかこのようになってしまったようです。もちろん、ぶつけたり倒したりしたわけではありません。
参考までに、下の写真は20年以上前に購入した「Fender USA」のギターです。

こちらは数えきれないほど外で使い、特別なケアもしていませんが、今でもピカピカのままです。
安いアコギはなぜ安い…?
ここからは、2~5万円程度で買うことのできる「安いアコギ」についてです。
この価格帯になると、上で述べたような問題はほとんど解消される印象を受けます。簡単にいうと、「悪くない出来」に仕上がっているわけです。
では、なぜ比較的安い価格で販売されているのでしょうか?
木材の違い
価格が控えめな理由のひとつは、「木材」です。
高額なアコースティックギターには、入手しづらい木材、希少性の高い木材が使用されている傾向があります。反対に、低価格なアコギには、比較的入手しやすい木材が使用されているのです。
そういった木材の違いにより、音色の特徴に差が生じるのは事実ですが、入手しやすい木材が使用されているからといって、そのギターは音が悪いなどと決めつけてしまうのはよくありません。
たとえば、下の動画はヤマハのエントリーモデル「FG800」(価格およそ3万円前後)による演奏ですが、音が悪いとか酷いと感じる人はあまりいないのではないでしょうか。
ギターを長く続けていると、「この木材の音が好き」といった細かい好みが生まれます。木材にこだわってギターを選ぶのは、そうした好みが生まれてからで充分でしょう。
作りの違い
もうひとつ、安いアコギの価格が控えめな理由として、「作りの違い」があります。比較的分かりやすい点としては、「単板」と「合板」の違いです。
単板とは、簡単に説明すると1枚の板を加工して作られているものをいいます。それに対し合板とは、複数の板を重ね合わせるようにして作られているものをいいます。
単板のほうが手の込んだ製造過程が必要となる都合上、それだけ価格も高くなります。高級なアコースティックギターは、ボディの表面、裏面、側面ともに単板になっていることがほとんどです。
少し価格が下がったモデルでは、裏面や側面が合板仕様になることが多く、「安すぎる」の類までいくと、表面も合板仕様になる傾向があります。
音の特徴としては、1枚の板である単板のほうが音の響きが豊かである、とよく言われます。ただ、強度という点では、複数枚の板を重ねて加工した合板のほうが優位であり、湿気に強いのも合板です。
そのため、必ずしも単板のほうがよい、とは言いきれないのが難しいところです。弾き手のプレイスタイルや好みによって、このあたりの評価は分かれるのでしょう。
また、単板や合板といった作りの違い以外にも、高級なモデルではネックがより精巧な作りになっていたり、豪華な装飾が加わったりして、それにともない価格が上昇する傾向があります。
初心者は安いアコギで問題ない
さて、初心者がアコースティックギターを購入する場合、結局どの程度の価格帯で検討するのがよいのでしょうか?
結論を言ってしまうと、初心者なら2~5万円程度の「安いアコギ」で充分です。
先にも少し述べましたが、自分の耳で、指や体で、ギターのことがよく分かるようになってから高いギターを検討すればよいのです。その頃には自分の好みも明確になっているでしょうから、きっと満足のいく買い物ができるはずです。
そもそもの話として、「ギターを手にした人のおよそ9割は、1年以内にギターをやめてしまう」という非情な現実がデータとして存在します。(大手ギターメーカーのフェンダー社による調査)
「その初心者のうちの90パーセントの人は、1年以内もしくは90日以内でギターを辞めてしまう」というのです。
Rolling Stone Japan 老舗ギターブランド「フェンダー」が成長し続けている理由 より引用
そのため、よほどのお金持ちは例外として、いきなり高いギターを買ってしまうのは、賢明な判断とは言えないのです。
もし、「2~3万円でも予算的に苦しい、それでもギターが弾いてみたい」というなら、1万円前後の「安すぎるアコギ」を買うのもアリだと思います。もちろんその場合は、先に述べたようなデメリットがあることを理解したうえで購入するようにしましょう。
おわりに
安いアコギのデメリットや安さの理由について解説しました。
今回はアコースティックギターを題材に記事を書きましたが、エレキギターも似たようなものだと考えて問題ありません。
「なるべく安いギターを…」と考えていた人は、この記事の内容を踏まえたうえで、お気に入りの1本を探してみてください。