世の中には、「音に無頓着な人」が一定の割合で存在します。要するに、「普通よりもうるさい人」です。
よくあるのはこんなパターンでしょうか。
- ステレオの音量が大きすぎる
- 部屋に友達を連れこんで夜中まで騒いでいる
- 家のなかで大声で歌っている
- ドスンドスンとやたら足音をたてる
- ドアを乱暴に開け閉めする
木造のアパートならもちろん、コンクリートのマンションでも壁が薄かったりすると、隣人の発する音に悩まされることがあります。同居する家族がうるさくて悩むこともあるでしょう。
この記事では、そんな「音に無頓着な人」の心理と、せめてもの対策について解説します。
注意しても「ほぼ直らない」
音に無頓着な人は、自分がうるさいとは思っていないことがほとんどです。
そのため、注意などをしても自分に非があるとは思ってくれず、むしろ「『うるさい』とか言ってるヤツがおかしい!」などと考えるのです。大きな音で音楽を聞いている住人に苦情を出したところで改善しないことが多いのは、そういった心理によるものでしょう。
要するに、注意しても「効かない」のです。「自分はうるさいのである」という事実を、決して認めようとしないのです。
これが、うるさいことをある程度自覚できる相手の場合は別です。たとえば、僕はエレキギターを弾くのですが、ギターアンプにつないでボリュームを上げれば、とても大きな音が出るので、自分でもうるさいと感じます。そんなことを自宅でやって、近所から苦情がくれば、「そうだよね、やっぱりうるさいよね…」と認識し、その後はそうそう同じことを繰り返さないわけです。
騒音主が後者である可能性も考えて、集合住宅なら一度は管理会社を通じて注意してもらうべきでしょう。ただ、ほとんどの場合は「効果なし」に終わるはず。なぜなら、「うるさい」を自覚できる人は、うるさいと思われることなど最初からしないのです。周囲への迷惑を考えて、ちゃんと控えるのです。
ただ、引っ越してきたばかりの人など、「そんなに聞こえるとは思わなかった…」といったパターンもあるでしょう。その場合には、きっと一発で解決するはずです。そのわずかな望みに賭けて、一応は苦情を入れるべきなのです。
ですが、騒音主の多くは、「自分がうるさいことを決して認めようとしない人」なので、徒労に終わってしまうことが多いのでしょう。
うるさい人は「うるさくされても平気な人」
家で勉強をしているとき、読書をしているとき、寝ているとき…。多くの人は、「静かであってほしいとき」にうるさくされたら不愉快でしょう。
そんな思いを少なくとも10代のうちには何度か経験し、「うるさい」とはすなわち「不快である」、「迷惑である」と理解するのです。そして、その「うるさい」を他人にやってしまうのは「よくないこと」と察するわけです。
「音に無頓着な人」は、そんな経験がこれまでに一度もなかったのでしょうか?きっとそうではなく、その「逆」のパターンが多いと思うのです。
たとえば、騒々しい団地のなかで育ったとか、酔っ払ってわめき散らす父親のもとで育ったとか、「うるさいのが当たり前の日々を幼少期からおくっていた人」だと思うわけです。
つまり、ずっと「うるさい」の中にいたので、「うるさい」をうるさいとは感じていないのです。
たまに、うるさい隣人に対し、同じく「うるさい」で反撃して、どれほど苦痛かを分からせようとする人がいますが、相手がこのタイプなら何の意味もないでしょう。
「うるさい」をうるさいと感じない人は、「うるさくされても平気な人」なのです。そんな人だから、音が他人の迷惑になることを理解できないのです。
うるさいのを嫌がるくせに、その当人がうるさい
それとはまた別に、厄介なパターンがあります。「うるさくされるのを嫌がるくせに、その当人がうるさい」というパターンです。
「“うるさい”とは、すなわち迷惑である」と感じている、分かっているくせに、自分自身が発する「うるさい」は正当化してしまうわけです。
「うるさい=迷惑」と理解しているなら、自分も他人に対してうるさくしてはならない、と考えるのが普通の大人です。しかし、自身の「うるさい」を制御しようとはしない、とてつもなく厄介な人が一定数いたりするのです。
他人の失敗などは厳しく非難するのに対し、自分の失敗などには妙に甘くなる、という心の偏りを、「行為者-観察者バイアス」といいます。他人が何かミスなどをしたときは、その原因を相手の性格や能力のせいにするのに対し、自分が同様のミスなどをしたときは、自分以外の人や環境のせいにしてしまうのです。
「うるさくされるのを嫌がるくせに、その当人がうるさい」というパターンは、まさにこの「行為者-観察者バイアス」によるものでしょう。それでいて、「自己正当化」という心の働きが著しく強いため、自身の行いを「悪いこと」とは思ってくれないのです。
そう考えると、この手の騒音主が最も手強いかもしれません。ただ、このタイプの人は、音が他人の迷惑になることを一応は理解しているため、どうにかして分かってもらえるケースもあるかもしれません。
とはいえ、「バイアス」という認識の歪みや偏りを、人の思考から取り除くのは非常に難しいことです。ましてや、それが赤の他人であれば、なおさらのことでしょう。
もしかして、神経質すぎ…?
「うるさい」と訴える人のことを、逆に「神経質すぎるのでは?」と指摘する人がいます。
たしかに、訴える側が神経質すぎる可能性もあるでしょう。ただ、そう指摘している側が音に無頓着なだけ、という可能性だって当然あるわけです。
音に無頓着なタイプの人は、基本的に自分のことをうるさいとは思っていません。だから、本当は自分が無神経であるにも関わらず、「あの人は神経質すぎる」と結論づける傾向があるわけです。
騒音主が無神経なのか、それとも自分が神経質すぎるのか、どちらか分からなくなってしまうこともあるかもしれません。そんなときは、仲のよい友達数人に、「自分が神経質なタイプかどうか」を聞いてみるとよいでしょう。
音に神経質すぎる人は、ほかのことに対しても神経質な可能性があります。その様子は他人からも確認できるはずなので、友達に聞いてみると真実が見えるかもしれません。
また、自宅での騒音に悩んでいるなら、何人かの友達に自宅まで来てもらって、その音を実際に聞いてもらうのもひとつの手です。「あぁ、たしかにうるさいね~」となるのか、「これくらいなら別に普通じゃない…?」となるかで、自分が神経質すぎるかどうか、ある程度は判断できるでしょう。
騒音に対する「せめてもの対策」は…?
基本的に、音に無頓着な人はどうすることもできない、と考えるべきです。
「同じ人間だから分かってもらえる」などと考えてしまいがちですが、分かりあえない人などいくらでもいるのです。だからこそ、人とのケンカ、恋人との破局、配偶者との離婚、譲れぬ者同士の裁判、他国との戦争などが存在し続けるのでしょう。
音に無頓着な人のことも、「同じ人間だから…」ではなく、「もはや別の生き物」ぐらいに考えてしまったほうがよいのです。
それでも、集合住宅で隣人や上下階の騒音に悩んでいる人は、一度は苦情を入れるべきでしょう。先にも述べたように、「もしかしたら…」の可能性が、あるにはあるのです。
ただし、直接苦情を言いに行ったり、壁を蹴ったりしてアピールすることはやめましょう。相手が逆恨みするなどして、思わぬトラブルに発展することもあります。苦情はマンションやアパートの管理会社(管理会社がない場合は大家)を経由するのが無難です。
管理会社が面倒くさがってまともに対応してくれない可能性もありますが、そこはきちんと対応してくれることを願うしかありません。騒音の程度が酷い場合、あるいは一軒家の場合なら、警察への通報を視野に入れてもよいかもしれません。
防音グッズに騙されてはいけない
運よくそれで静まればよいですが、ダメだった場合はどうすればよいのでしょう?思いきって引っ越しなどができればよいのですが、そう簡単に引っ越しができないから悩むわけですね…。
以前に別の記事でも触れましたが、比較的安価(といっても数万円~数十万円)で試せる防音対策(壁を覆うように設置するワンタッチ式の壁など)は、たいして効果がないと思うべきです。
音とは「空気の振動」であり、ほんの少しでも空気の通り道があれば、そこから簡単に侵入します。仮に完璧に隙間をふさぐことができたとしても、それだけでは低音がブロックできません。
ステレオの低音などは、壁の反対側の空気を揺らすほどのパワーがあります。そのパワーを遮るには、鉛のように重く、そして分厚い壁が必要なのです。薄い壁になにか少し付け足したところで、「重くて厚い壁」には遠く及びません。
防音とは、「数百万を使ってやっと形になるもの」と認識しておくべきです。
意外と侮れない耳栓
そう考えると、実質的にはもうお手上げになるのですが、ダメもとのつもりで試してもらいたいのが「耳栓」です。
耳栓で騒音をシャットアウトなどもちろんできないのですが、うるさいと思っていた音が「遠くに感じる」ぐらいの効果はあるのです。
特に、「掃除機の音がうるさい」「足音がうるさい」「ドアの音がうるさい」など、「物音」の類で苦しんでいる人は、それなりの効果が期待できると思います。
「仲よくなれば…」は絵に描いた餅
「周囲の住人と普段からコミュニケーションをとって仲よくしていれば、騒音もあまり気にならない」
そんな主張を見かけることがよくあります。たしかに、仲のよい人が出す音ならそこまで気にならない、ということはあるでしょう。
ただ、大半の人にとってこれは、単なる理想論でしかないはずです。
そもそも、たまにすれ違って挨拶する程度では、相手がどんな人なのかよく分かりません。それなのに、もう一歩踏みこんで仲よくしようとするなど、場合によっては危険なのです。(特に、若い女性の場合)
しかも、集合住宅の場合、自分の部屋の左右上下、隣接する部屋の人たちとすべて仲よくしなければなりません。そんなハードミッションをクリアできる人など、そうそういないのではないでしょうか?
それ以前に、他人とのコミュニケーションが苦手な人もいるでしょう。自分が平気でも、相手はコミュニケーションを望まないタイプかもしれません。
いまの時代、よく知らない他人に対し、「同じ建物に住んでいるから」「近所だから」といった理由だけで、積極的にコミュニケーションを取ろうとするのも考えものだと思います。
おわりに
音に無頓着な人の心理と、せめてもの対策について、個人的な見解を述べました。
残念ながら、音に無頓着な人を「音に配慮する人」に生まれ変わらせることは、ほぼ不可能でしょう。騒音に限った話ではないですが、他人を自分の望みどおりにすることはとても難しいのです。結局、自分側で何かを変えるほうが早いのですが、騒音問題の場合、そのための選択肢が少なすぎるのがつらいところです。
だからこそ、物件を選ぶときは、騒音トラブルの被害にあいづらそうな建物や土地を選びたいものです。家を買う、あるいは賃貸契約をするときは、「隣人もセット」だということを忘れずに…。